大自然の中を歩き、その痕跡を石や樹木といった素材を使って作品に残す、独創的な手法で「歩行の芸術家」と呼ばれる。自然との対話の中から生まれた、シンプルで力強い造形と精神性に満ちた作品は、国際的な注目を集めてきた。
ロンドンの美術学校在学中の1967年、草原を何度も往復して道筋をつけ、その痕跡を写真で記録した≪歩行による線≫を発表し、現代アートの最前線に躍り出る。「石膏(せっこう)や金属を使った従来の彫刻に疑問を感じていた」と語るように、その後一貫して自然と人間との関係をテーマに作品を制作。米国のロバート・スミッソン、ウォルター・デ・マリアらと共に大地をキャンバスとする「ランド・アート」の代表的な作家となった。
子供のころから親しんできた故郷ブリストルのエイヴォン川をはじめ、ヒマラヤの山中やサハラ砂漠、オーストラリアの森…。「荒れ地を歩けば未知なる場所を発見でき、そのひとつひとつが私に新しい作品のアイデアを与えてくれるのです」と、40年間にわたって自らの足で歩くことで独自の芸術を追求してきた。
その土地で見つけた石や木切れを拾って円や直線に並べ、花を摘んで十字の形を作り、写真として記録。痕跡は時に歩行ルートを記した地図や、詩のような言葉を添えたテキストワークとして残される。
屋外作品は風雨や寒暖の差、時間の経過とともに刻々と変化し、やがて跡形もなく消滅する。巨石を積み上げたストーンヘンジやナスカの地上絵のような古代遺跡にも似て、見る者の想像力をかきたてる。2年前にスコットランドの山中で足を骨折するが、創作意欲は衰えず、「屋外が私のアトリエ」と64歳となった現在も、重いリュックを背に1年の大半を旅に過ごす。
展覧会などで度々来日。富士山や鳥海山などを歩き、香川県直島の≪瀬戸内海の流木の円≫、東京国際フォーラム広場の≪ヘミスフィア・サークル≫など作品も数多く、熱烈なファンを持つ。日本文化への関心が高く、特に京都の禅庭に心酔。「石の彫刻を作る時は龍安寺の石庭模様の手ぬぐいを頭に巻く」と、茶目っ気たっぷりに語る。
2009年6月から9月まで、泥と陶土の壁画を含めて約70点のロング作品を集めた大規模展覧会『ヘヴン・アンド・アース(天と地)』がテート・ブリテンで開催され、ロング作品の持つ意義と重要性が改めて評価された。