スティーヴン・ソンドハイム

Stehen Sondheim

プロフィール

  スティーヴン・ソンドハイムは、数多くの斬新なヒット作品で、現代アメリカのミュージカルを芸術としての新たな次元に引き上げた巨匠として知られている。
  1930年、ニューヨーク生まれ。15歳のとき、家族ぐるみで親しくしていた「南太平洋」や「オクラホマ」などの有名な作詞家オスカー・ハマースタインⅡ世から、ミュージカルのノウハウを伝授された。ウィリアムズ・カレッジで音楽を学び、25歳の若さでレナード・バーンスタイン作曲の大ヒット作「ウェストサイド物語」の作詞をまかされ、最初の成功をおさめた。32歳の時、「ローマで起こった奇妙な出来事」のロングランで作詞・作曲家としての地位を確立した。以後、「カンパニー」(1970)、「フォリーズ」(1971)、「リトル・ナイト・ミュージック」(1973)、「スウィーニー・トッド」(1979)、「イントゥ・ザ・ウッズ、」(1987)、「パッション」(1994) など、知性と独創性にあふれたミュージカルをつくり続け、アメリカ・ミュージカルの最高賞であるトニー賞を度々受賞。「ジョージの恋人」(1984)ではピュリツァー賞を受けた。
  日本でもすでに4作品が上演されており、2000年には新国立劇場で、幕末の日本を舞台にした「太平洋序曲」(1976)が宮本亜門の演出で上演された。

詳しく

  ミュージカル音楽の魅力とは何か。普段なら話すことを歌に置き換える、などと単純に考えてはいけない。それ自体が洗練された音楽であるだけでなく、歌詞と共に舞台のドラマティックな状況を盛り上げ、脳裏に焼きつく感動で観客を魅了し、他のエンターテイメントにない力を放つものである。
  この感動にこの30年間、最も真摯に取り組み見事な作品を作り続けてきたのがミュージカル作家のスティーブン・ソンドハイム氏だ。
  1930年3月22日、ニューヨークに生まれたソンドハイムは、7歳からピアノとオルガンを学んだ。後、ミュージカルの巨匠オスカー・ハマースタインとの家族ぐるみの交流から作曲法を学び、有名な作詞家とも出会った。又、大学卒業後、革新的な作曲家ミルトン・バビットと交流をもったのも、彼独特の世界観を形成した原因の一つになっている。
  その成功はまず、作詞家として訪れた、それはレナード・バーンスタイン作曲「ウエストサイド物語」(1957)、ジュール・スタイン作曲「ジプシー」(1959)からだ。この二作は大胆なプロットを持っていて、伝統にとらわれず、シリアスなドラマ的機能を備えた手法で作られた。ここに彼がどれほどショーとしてではなく演劇としてミュージカルを捕らえていたかが証明される。
  そして、作曲家としての一作目が「A Funny Thing Happened On The Way To The Forum」(1962)で、プラトゥスの戯曲を基に、笑劇自体の熱狂から単純にならぬよう、休止をもたらす音楽を作った。次に「腐敗した市役人についての愚かな道徳寓話」を「Anyone Can Whistle」(1964)として、社会のしきたりや偏見を告発するコメディーを作った。
  「カンパニー」(1970)では、新しいサウンドとアプローチで、登場人物達のキャラクターを発展させ、ミニマリスト的影響を入れ込んでいる。世に言うソンドハイムらしさはここで開花する。オーケストレーターのジョナサン・チューニックと共に、スコアに機械化された性質を与えるエレキギターと共に、ムーグシンセサイザーを使用し、都会的なサウンドを創り出した。
  次作「フォリーズ」(1971)は、キャラクターの発展的アプローチをもう一段階進め、プロットをさらに少なくし、バラエティーに富んだスタイルで驚くべき多芸多才ぶりを披露している。かつて、フォリーズというレヴュー小屋で狂想的舞台を演じていた中年達が主人公で、彼らの失われた若さを喚起しながら、心地よい哀愁溢れる曲はミュージカル史上忘れることのできない名曲だらけといっても過言ではない。
  「リトル・ナイト・ミュージック」(1973)は、イングマール・ベルイマンの映画「夏の夜は三度微笑む」(1955)を原作にした作品で、その洗練された才能をハイ・コメディを通して魅せた。音楽はエレガントそのもの、世界的名曲とされ大ヒットとなった「Send In The Clowns」はこの作品からの曲である。
  「太平洋序曲」(1976)は、彼にとって最も奇抜で野心的なミュージカルのひとつである。スコアのミニマリスト的な美しさは、伝統的なオーケストラ色に加えて日本の琴とパーカッションを多様し、独特の世界を作り上げている。私が演出を担当した2000年版の新国立劇場プロダクションは、氏の招きによりニューヨークとワシントン公演が決定した。
  そして、次に手がけたのが、誰もが絶賛する歴史的名作「スウィーニー・トッド」(1979)である。イギリスの「三文小説」に基づいた演劇を観た後、熱烈に改作し作り上げた作品である。スリラーの面を持ち、シチュエーションは暗いながらも、コメディカルで、スコアは果てしなく工夫に富み、非常な表現力に満ちたオペラ的作品である。
  「Merrily We Roll Along」(1981)は、若い役者によってストーリーは時間にさかのぼって進行する。音楽は美しい響きで現代的だが、観客は時間の逆行という実験についていけず、たった16公演で終了した。
  「ジョージの恋人(Sunday In The Park With George)」(1984)は、ジョルジュ・スーラの19世紀の絵画「Sunday Afternoon On The Island Of La Grande Jatte」に触発された作品だ。曲は印象派絵画とマッチし、最も優雅なソンドハイム・スコアのひとつとなった。
  そして、1987年には「Into The Woods」を創り出した。童話の登場人物たちを生の人間たちに生き返らせ、内容は現代に生きる人間達を鋭く突いた。楽しめ、考えさせる作品だ。1991年にオフ・ブロードウェイで限定公演を開幕した「Assassins」は、リンカーンからロナルド・レーガンまで大統領を狙った暗殺者たちを検証している。この作品は2001年、初のブロードウェイ公演が決まっている。1994年には病弱な女性の強迫観念的な愛のストーリーを描いたイタリアの小説「Passion 」を改作した。これは彼の最も思いやりのある、優しいスコアであり、準オペラ的に感じるアリア風構成をともなっている。
  正直、ソンドハイムの音楽を初めて聞いたときには、私にとってあまりに非ミュージカル的に思え、「なんて冷たいのだろう」と感じた。しかし、時間をかけ、作品の真髄を知ると、全く反対の感想が湧いた。暖かい! なんと人間を暖かく見ているのか! 彼の音楽を語る時、よく誤って使われる言葉は、難しいと冷たいである。しかし、その作品のうち冷たいものは一切ない。むしろ、音楽的にも演劇的にも知的であるだけでなく、最も表現力に富み、暖かく深く人を見つめるための作品である。彼の作品を本当に知るには、音楽や演劇の古い慣習的な考えを解放することが必要だ。彼の作品はそれだけの価値があるし、また、後世に語り継がれるであろう同時代の才人の仕事を見逃すわけにはいかない。

宮本亜門

略歴

  1930  3月22日、ニューヨークに生まれる
  1937 ピアノを習い始める
  1940 両親が離婚、母親と共にペンシルベニアへ移る
オスカー・ハマースタイン2世から作詞の指導を受ける
  1946 ウイリアムズ・カレッジへ進学、この間にショーを2本書く
  1950 カレッジ卒業と同時にハッチンソン賞受賞
2年間ミルトン・バビットに師事し作曲を学ぶ
CBSテレビのTOPPERシリーズやなどの台本を書く
  1956 「ザ・ガールズ・オブ・サマー」の伴奏音楽を作曲、実質的なブロードウェイ・デビューを果たす
学生時代の先輩で劇作家のアーサー・ロレンツに認められ、バーンスタイン作曲「ウエストサイド物語」で作詞家としてのデビュー 
  1957-58 CBS テレビのThe Last Wordのシナリオを手がける
  1959 「ジプシー」の作詞を手がける
  1962 「ローマで起こった奇妙な出来事」で作詞作曲の両方を手がけ、彼の作品の中で最長ロングランを記録する大ヒットとなる
  1964 アーサー・ロレンツと「誰でも口笛を」を発表、9回で打ち切りになる
  1965 リチャード・ロジャースと映画「旅情」のミュージカル化「ワルツが聞こえる?」を発表、作詞を担当
  1970 現代的ミュージカル「カンパニー」発表。登場人物の心理や感情を歌によって表現する作風で高く評価され、独自のスタイルが確立され始める
  1971 レビューの雰囲気を表現した「フォーリーズ」発表、高い評価を得る
  1973 ベルイマンの映画「夏の夜は三たび微笑む」 のミュージカル版「リトル・ナイト・ミュージック」発表。クラシック的な音楽技法でモーツアルトやブラームスの影響を受けている
  1976 日本の近代化を描いた作品「太平洋序曲」発表。来日して日本芸能を研究し、歌舞伎の技法も取り入れた
  1979 オペラに近い手法の「スウィニー・トッド」発表
  1984  画家ジョルジュ・スーラを主人公にした「ジョージの恋人」発表
  1987 三つのお伽話をもとにした作品「森の中へ」を発表
  1991  アメリカ大統領襲撃事件の犯人たちが時を越えて登場する、史実にもとづいた作品「暗殺者」がオフ・ブロードウェイで上演される
  1992 ニューヨーク、カーネギーホールで「ソンドハイムに捧ぐ」と題した彼の作品チャリティーコンサートが開かれる
  2000  高松宮殿下記念世界文化賞・音楽部門受賞
  主な作品と受賞 (☆日本上演作品) 1957 ☆ 「ウエストサイド物語」
1959 ☆ 「ジプシー」
1962 ☆ 「ローマ起こった奇妙な出来事」63年トニー賞受賞
1964   「誰でも口笛を吹ける」
1965 ☆ 「ワルツが聞こえる」
1970   「カンパニー」、71年トニー賞受賞
1971   「フォリーズ」
1973 ☆ 「リトル・ナイト・ミュージック」トニー賞受賞
1976   「太平洋序曲」
1979 ☆ 「スウィニー・トッド」*トニー賞受賞
1981   「楽しく前進」
1984 ☆ 「ジョージの恋人」ピューリッツアー賞受賞
1987   「森の中へ」
1990   「暗殺者」
1994   「パッション」
1999   「Putting It Together」