ピーター・ズントー

Peter Zumthor

プロフィール

  建てる「場所」と「用途」に真摯に向き合い、ふさわしい「素材」選びに労を惜しまない。「オーダーメードのような建築」にこだわる。スイス南東部の州で歴史的建造物の保存・修復をする仕事を経て、建築家として独立。今も同じ州の小さな村ハルデンシュタインにアトリエを構え、その作品はスイスを中心に欧州に集中している。宗教建築から美術館、温泉施設、住宅にいたるまで、一貫して精神性の高さを感じさせる。昨年開館した「聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館」(ドイツ・ケルン)も、ローマ時代から脈々と続く歴史の継続性を、廃墟部分を生かすことで表現。さしこむ光と陰の微妙な使い方は、谷崎潤一郎の「陰翳礼讃」に通じるようだ。

詳しく

  「誠実な建築家」と評される。建てる「場所」と「用途」に真摯に向き合い、ふさわしい「素材」を選ぶのに労を惜しまない。職人の技と緻密さを、粘り強く要求する。
何より自分自身に誠実だ。「私は建築を愛している。だから、仕事を受ける際はまず、美しいものを作れる可能性がたっぷりあるかどうかを見極める」
スピードと効率が優先される時代、安易な商業主義に与しない態度は、「孤高」と表現されることもあるが、本人は「私は熱い建築家。自分の望むやり方で働きたいだけ」と言う。
スイス・バーゼルの家具職人の家に生まれ、父親から大工仕事の手ほどきを受けた。ニューヨーク留学を経て、スイス南東部グラウビュンデン州の歴史的建造物保存局に勤務。1979年に建築家として独立するが、現在も同州の小さな村ハルデンシュタインにアトリエを構える。建築物もスイス中心に欧州に集中しており、多くは都会からはるかに離れた田舎や山奥にある。
その真骨頂は、祈りの空間だろう。スイス・アルプスの山村スンヴィッツの「聖ベネディクト教会」(1989)は、雪崩で崩壊した中世の教会の代わりに建てられた木造の教会で、小舟を思わせる内部空間が何とも端正だ。また、ドイツ・ケルン近郊の麦畑にすっくと建つ「ブルーダー・クラウス・フィールド・チャペル」(2007)は、自然と寄り添い生きる地元民の厚い信仰心を、崇高なまでに具現化している。
さらに、2007年秋に完成した「聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館」は、古い教会の跡地に美術館を増築したものだが、ローマ時代から脈々と続く歴史の継続性を、廃墟部分を生かすことで表現。さしこむ光とともに精神性の高さを感じさせる。
他にも、300年前から続く農家に新家屋を継ぎ足すことで新しい息吹を入れた「グガルン・ハウス」(スイス)、地元の石をふんだんに使った標高1200メートルの温泉施設「テルメ・ヴァルス」(同)、すりガラスで覆った「ブレゲンツ美術館」(オーストリア)など、いずれも実用性と美が共存し、谷崎潤一郎の「陰翳礼賛」に通じるような、光と陰の微妙な使い方が印象的だ。

ズントーは、建築はシンボルではなく、あくまで使うためのものだと強調し、「オーダーメードのように、その場特有のものになる建築」にこだわる。その姿勢は職人を束ねる棟梁のようであり、哲学者のようでもある。

 

略歴


1943 スイス・バーゼルに生まれる

1958 収納家具製作の徒弟として技術習得

1963 バーゼルの造形学校に学ぶ

1966 ニューヨークのプラット・インスティチュートに学ぶ

1968 スイス・グラウビュンデン州の歴史的建造物保存局に勤務

1978 チューリヒ大学の教授就任

1979 グラウビュンデン州ハルデンシュタインに建築事務所設立

1986 「ローマ遺跡のためのシェルター」スイス

1986 「アトリエ・ズントー」スイス

1989 「聖ベネディクト教会」スイス (1994 グラウビュンデン州優良建築賞)

1994 「グガルン・ハウス」スイス (1994 グラウビュンデン州優良建築賞)

1995 ニューヨーク近代美術館「ライト・コンストラクション」展に出展

1996 「ヴァルスの温泉施設」スイス

1997 「ブレゲンツ美術館」オーストリア (1999 ミース・ファン・デル・ローエ賞)

1998 カールスバーグ建築賞(デンマーク)

2000 ハノーヴァー万博スイス館

2007

「ブルーダー・クラウス・フィールド・チャペル」ドイツ

「聖コロンバ教会ケルン大司教区美術館」ドイツ