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私は日本に来て、世界文化賞というこの大きな賞の受賞者に名を連ねたことを大変光栄に思います。私の仕事はここ数年ますます都市とアーバン・デザイン、それに継続的環境資源開発にかかわってきているのですが、ここではまず、建物についてお話したいと思います。そして講演の最後の方に少し都市計画とデザインについてお話しようと思います。
■近代建築の主テーマになった「フレキシビリティ」
まず最初にご注目いただきたいのは、京都の桂離宮=写真2=です。もしどこか近代建築発祥の地というものがあるとすれば、それは何百年か前に、ここからスタートしたのではないかと思います。この桂離宮にあるものほとんどすべてが、近代建築の運動に直接結びついています。
金や銀を使った典型的なルネッサンス時代の建築に対して、この桂離宮は構造がとてもシンプルで、木材や紙、石、藁などを使っています。これらの素材は、贅沢さよりも、素材そのものの質感や文脈、スケールなどによって生きています。
ルネッサンス時代の建築は、静的な空間でした。この時代の建物は完成した時に既に完璧であり、何も付け足したり取り去る必要はなかったのです。しかし、桂離宮は違います。フレキシブルな木材のフレームで建てられ、内部を工夫し直すことができます。実際これは一つの時代に建てられた建築というより、何百年にもわたって絶えず変更を加えられてきた動的な建築物なのです。
私がこの建物で好きなのは、一般大衆的ローコスト建築の可能性を示すとともに、人々皆のシェルターという概念と、偉大な芸術の理想を兼ね備えている点です。この離宮が建てられてからすでに約350年もたち、それでいて建築の概念はほんの少ししか進歩していないと考えれば、これはすごいことです。しかし我々のテクノロジーは進歩して、こうした建築の要素を把握するに至り、フレキシビリティはいまや近代建築の主たるテーマとなりました。
また、ウィンブルドンにある私の両親の家ですが、ここで私は、この家を庭と関連づけ、また拡張可能なフレームワークという概念を取り入れようと試みました。全てのスチールの間仕切りはフレキシブルで流動的です。ですから理論的には、庭に向かってどんどん建て増していくことができ、建物を二つ三つと追加することが可能です。
家の中は可動パーティションで仕切られ、キッチンはとてもシンプルに造られています。私はシンプルな生活という考えに基づきこの家をデザインしました。私はまた、光のあそびと、庭とのつながりに関心をもっています。
これとは対照的に、日本の都会の建築=写真4=は極端に賑やかで、ここまでにお見せした二つの建物と正反対といえます。静寂や庭との関連などはありません。しかし、その代わりにダイナミスムと活気に満ちています。日本の「垂直性」というものは非常に特徴的です。欧米の都市では建物はもっと「水平性」が特徴となっており、都市の文脈やスケールという要素がずっと希薄です。しかし日本の建物は縦に細長く垂直であり、まるで縦書きの日本語の文章のように、通りを見通していくと次々に目で追いかけることができます。これが生命力に溢れた都市を生み出しています。都市とは人々が出会う場があり、経済と文化的活動の両方が中心に集められています。この中で我々の闘いは、ここに住む人たちの大部分のために、よりよい生活を創り出すことであり、しかもバイタリティを維持することが重要なのです。
■パリの活力を捉えたポンピドゥー・センター
私達はあのボーブール、一般にはポンピドゥー・センター=写真5=として知られる建物をデザインする時、このようなバイタリティーを捉えようと努力しました。大変エキサイティングなエレクトロニクス時代の象徴的な建物として、世界中のアート、文化、情報センターとのリンクをダイナミックなファサード(前面)で表現しようとしました。これはあらゆる年代、あらゆる考え方の、すべての人々の情報センターなのです。
ポンピドゥー・センターは個々の区分から成り立っているのではなく、全体としてひとつの文化スペースとなっています。文化のための、一連のロフト・スペースあるいは倉庫といってもいいでしょう。外側に造られた大きな広場は、私にとって最もエキサイティングな空間です。パブリック・スペースは、一連の外部の通路や回廊に連なり、時にはガラスに覆われ、時にはオープンとなっています。更に各フロアーは、巨大なエスカレーターで結ばれ、空へ向かって伸び、パリを一望する景観が得られるようになっています。
パブリック・スペースを創り出すことは、私達にとってひとつの挑戦でした。建物の使用者はまず、建物の内部や機能に関心をもちます。しかしながら建築家は、アーバン・デザインを考えるとき、見物客や通行人も非常に重要だということを考慮しなければなりません。
ポンピドゥー・センターはパリの隙間のない基盤の中に建っています。一時そこは非常に荒廃した地域でしたが、徹底的に変えることができたと感じています。この建物は、建築が周辺環境までも変えることができるという、重要な役割を示しています。建物の一方の面が大きな広場に面し、もう一方の面にすべての機械的な機能が集中するようデザインしました。こうして、垂直な要素がまったくない、サッカー場2つに等しいスペースを、美術館や図書館またはパフォーマンスを行なう空間といった何でも利用できるようなスペースとして残したのです。全体のコンセプトは、この建物の寿命が続くかぎり変更していけるということです。実際に昨年大きな変化を遂げ、この先25年間の利用に適応するよう手直ししました。
ポンピドゥー・センターは大きな成功を収めました。年間700万人が訪れ、ヨーロッパで最も入場者が多い建物です。レンゾ・ピアノと私、そしてエンジニアのピーター・ライスがデザインしました。建築はチームワークが全てです。建物で重要なのは、その高さや広さよりも、その都市の文脈とスケールです。そしてヒューマニズムを表すためのディテールです。もしポンピドゥー・センターをシンプルでどっしりした構造に造っていたら、2倍の大きさに見えたかもしれません。そこで、私達はチューブで細かいセクションごとに区分したのです。その小さな部分にあたる光や影のあそびが、建物にヒューマニズムのクオリティを与えているのです。
ポンピドゥー・センターは、1968年の学生と知識人とによる反体制運動を反映しています。そのコンセプトは「お祭り」であり、非常に流動的デザインで、成長を続けることを目指していました。文化とはエリートのためのものではなく、全ての人々が楽しむことができるという考えかたです。
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|  | | リチャード・ロジャース ©Sankei Shimbun
| |  | | 2,桂離宮 ©Yutaka Shobo
| |  | | 4,銀座
| |  | | 5, ポンピドゥー・センター ©Richard Rogers Partnership
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