| スティーヴン・ソンドハイム Stephen Sondheim |
| 2000, 演劇・映像部門 |
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ミュージカル音楽の魅力とは何か。普段なら話すことを歌に置き換える、などと単純に考えてはいけない。それ自体が洗練された音楽であるだけでなく、歌詞と共に舞台のドラマティックな状況を盛り上げ、脳裏に焼きつく感動で観客を魅了し、他のエンターテイメントにない力を放つものである。 この感動にこの30年間、最も真摯に取り組み見事な作品を作り続けてきたのがミュージカル作家のスティーブン・ソンドハイム氏だ。 1930年3月22日、ニューヨークに生まれたソンドハイムは、7歳からピアノとオルガンを学んだ。後、ミュージカルの巨匠オスカー・ハマースタインとの家族ぐるみの交流から作曲法を学び、有名な作詞家とも出会った。又、大学卒業後、革新的な作曲家ミルトン・バビットと交流をもったのも、彼独特の世界観を形成した原因の一つになっている。 その成功はまず、作詞家として訪れた、それはレナード・バーンスタイン作曲「ウエストサイド物語」(1957)、ジュール・スタイン作曲「ジプシー」(1959)からだ。この二作は大胆なプロットを持っていて、伝統にとらわれず、シリアスなドラマ的機能を備えた手法で作られた。ここに彼がどれほどショーとしてではなく演劇としてミュージカルを捕らえていたかが証明される。 そして、作曲家としての一作目が「A Funny Thing Happened On The Way To The Forum」(1962)で、プラトゥスの戯曲を基に、笑劇自体の熱狂から単純にならぬよう、休止をもたらす音楽を作った。次に「腐敗した市役人についての愚かな道徳寓話」を「Anyone Can Whistle」(1964)として、社会のしきたりや偏見を告発するコメディーを作った。 「カンパニー」(1970)では、新しいサウンドとアプローチで、登場人物達のキャラクターを発展させ、ミニマリスト的影響を入れ込んでいる。世に言うソンドハイムらしさはここで開花する。オーケストレーターのジョナサン・チューニックと共に、スコアに機械化された性質を与えるエレキギターと共に、ムーグシンセサイザーを使用し、都会的なサウンドを創り出した。 次作「Follies」(1971)は、キャラクターの発展的アプローチをもう一段階進め、プロットをさらに少なくし、バラエティーに富んだスタイルで驚くべき多芸多才ぶりを披露している。かつて、フォリーズというレヴュー小屋で狂想的舞台を演じていた中年達が主人公で、彼らの失われた若さを喚起しながら、心地よい哀愁溢れる曲はミュージカル史上忘れることのできない名曲だらけといっても過言ではない。 「リトル・ナイト・ミュージック」(1973)は、イングマール・ベルイマンの映画「夏の夜は三度微笑む」(1955)を原作にした作品で、その洗練された才能をハイ・コメディを通して魅せた。音楽はエレガントそのもの、世界的名曲とされ大ヒットとなった「Send In The Clowns」はこの作品からの曲である。 「太平洋序曲」(1976)は、彼にとって最も奇抜で野心的なミュージカルのひとつである。スコアのミニマリスト的な美しさは、伝統的なオーケストラ色に加えて日本の琴とパーカッションを多様し、独特の世界を作り上げている。私が演出を担当した2000年版の新国立劇場プロダクションは、氏の招きによりニューヨークとワシントン公演が決定した。 そして、次に手がけたのが、誰もが絶賛する歴史的名作「スウィーニー・トッド」(1979)である。イギリスの「三文小説」に基づいた演劇を観た後、熱烈に改作し作り上げた作品である。スリラーの面を持ち、シチュエーションは暗いながらも、コメディカルで、スコアは果てしなく工夫に富み、非常な表現力に満ちたオペラ的作品である。 「Merrily We Roll Along」(1981)は、若い役者によってストーリーは時間にさかのぼって進行する。音楽は美しい響きで現代的だが、観客は時間の逆行という実験についていけず、たった16公演で終了した。 「ジョージの恋人(Sunday In The Park With George)」(1984)は、ジョルジュ・スーラの19世紀の絵画「Sunday Afternoon On The Island Of La Grande Jatte」に触発された作品だ。曲は印象派絵画とマッチし、最も優雅なソンドハイム・スコアのひとつとなった。 そして、1987年には「Into The Woods」を創り出した。童話の登場人物たちを生の人間たちに生き返らせ、内容は現代に生きる人間達を鋭く突いた。楽しめ、考えさせる作品だ。1991年にオフ・ブロードウェイで限定公演を開幕した「Assassins」は、リンカーンからロナルド・レーガンまで大統領を狙った暗殺者たちを検証している。この作品は2001年、初のブロードウェイ公演が決まっている。1994年には病弱な女性の強迫観念的な愛のストーリーを描いたイタリアの小説「Passion」を改作した。これは彼の最も思いやりのある、優しいスコアであり、準オペラ的に感じるアリア風構成をともなっている。 正直、ソンドハイムの音楽を初めて聞いたときには、私にとってあまりに非ミュージカル的に思え、「なんて冷たいのだろう」と感じた。しかし、時間をかけ、作品の真髄を知ると、全く反対の感想が湧いた。暖かい! なんと人間を暖かく見ているのか! 彼の音楽を語る時、よく誤って使われる言葉は、難しいと冷たいである。しかし、その作品のうち冷たいものは一切ない。むしろ、音楽的にも演劇的にも知的であるだけでなく、最も表現力に富み、暖かく深く人を見つめるための作品である。彼の作品を本当に知るには、音楽や演劇の古い慣習的な考えを解放することが必要だ。彼の作品はそれだけの価値があるし、また、後世に語り継がれるであろう同時代の才人の仕事を見逃すわけにはいかない。 宮本亜門
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